五月節句の「兜」は、伝統的工芸品「彦根仏壇」の製造技術を活用しています。
彦根で武具・甲冑の製作に携わっていた塗師、指物師、錺(かざり)金具師などが江戸時代中期ごろに同じ工芸技術を活かせる仏壇製造に転向しとされており、その技術は現在の伝統的工芸品「彦根仏壇」を手がける職人に受け継がれています。現在の彦根仏壇には木工として木地・宮殿・彫刻、金工として錺金具、そして漆工として漆塗り・金箔押し・蒔絵の7つの製造工程があり、それぞれ専門の職人が高度な技術を伝えています。この兜は、これらの技術のうち宮殿を除く「木地・彫刻・錺金具・漆塗り・金箔押し・蒔絵」の6つの技法を活用しています。この「兜」は、甲冑製造から彦根が伝えてきた工芸技術で製造するこだわり抜いた本格的な工芸品です。
また、ストーリーとなる新しい試みとして地域性の演出性にも取り組んでいます。錺金具師が手打ちでつくる鍬形のデザインは、彦根藩主井伊家に伝わる軍配に施されていた装飾文様をモチーフにし、そのパターンを鍬形の形に当てはめて「彦根らしさ」を盛り込んでいます。物や形の中に、地域性や文化性はもちろん、業界やスタイルなど幅広い状況で演出性を加えることは、伝統工芸が得意とすることです。
Title | 五月節句飾り「兜」 |
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Date | 2025.03 |
題目 | 五月人形「兜」 |
技法 | 木地、彫刻、錺金具、金めっき、塗装、金箔押し、蒔絵 |
素材 | 兜:桧(代用漆塗装)、本金粉手描き蒔絵、銅製手打ち金具金めっき仕上げ、組紐、正絹袱紗 兜櫃(びつ):桐・桧葉(代用漆塗装) |
サイズ | 兜本体:縦(奥行)17.0㎝ 横(巾)26.0㎝ 高さ21.0㎝ 兜櫃 :縦(奥行)24.5 ㎝ 横(巾)33.3㎝ 高さ23.0㎝ |
発注者 | 彦根市在住 N様 |
撮影 | 大野 博 |
彦根仏壇の木地師、彫刻師、錺金具師、漆塗り師、金箔押し師、蒔絵師の職人の技術を駆使し、ひとつの工芸にまとめ上げました。仏壇と同じことですが、今回は初めてつくる物でしたので、仕上げの組み合わせなども細かく検討が必要でした。まず形をどうするかを最初から考える必要があり、それぞれの部位の仕上げとそれらの組み合わせなどをデザイナーと相談しながら組み立てています。
木地は、製品の土台・フレームなどを作る最初の工程です。
INOUEの木工の基本は、城下町彦根で江戸時代から続く伝統の金仏壇製造で培われた工芸品質です。
彦根仏壇の木地は、日本建築と同じく釘を使わないホゾ組みを得意としています。材料を吟味し部材の切り出しから継手や面取りに至るまで、妥協のない品質で職人がひとつひとつ手作りする木地は、何世代にも受け継がれる仏壇を支えています。
INOUEの製造ネットワークは量産が得意な他産地の木工所との繋がりもありますので、プロジェクトに適した木工で対応いたします。
漆は非常に高品質で美しい塗装です。ウルシノキの樹液を採取し、ゴミや埃を濾した精製漆が塗装に用いられます。その成分に含まれるウルシオールが空気中の水分と結合し硬化する世界最強の保護塗料のひとつです。
しかし漆は扱いが難しく、伝統技法で平滑に仕上げるには下地工程から高度な職人技が求められます。下地から上塗りまで何回も塗って研ぐ工程を繰り返して、塗り重ねます。中でも蝋色(ろいろ)仕上げは、漆の塗装面を平坦に研ぎ、生漆を摺リ込みながら何度も磨きあげ、鏡面で奥深い艶を出す漆塗り最高級の技法とされています。
漆とひとくちに言っても下地の処理から仕上げの方法までさまざまな技法が発展しています。INOUEは仏壇製造で培った漆工への深い知見から、変わり塗り・色漆から最高級の蝋色まで、適した漆塗りの技法とその職人を提案しています。
漆で絵や文様を描き、金粉などを蒔きつける漆芸技法を蒔絵(まきえ)と呼びます。広義では螺鈿や切金などを含んだ加飾を概ね蒔絵と呼ぶこともあり、金粉のみで表現したものを特に金蒔絵と呼んで区別することもあります。 蒔絵は日本で生まれ、独自に発展した日本のみに存在する伝統漆工芸技法です。平蒔絵や高蒔絵、さらに平蒔絵を一旦漆で埋め直し砥石や研炭などで蒔絵後の塗面を研ぎ出す研出蒔絵(とぎだしまきえ)など様々な技法が生まれました。さらに蒔き終えた金粉や銀粉の上に透き漆や色漆で塗り固め、研ぎ出して表現したり、金粉や銀粉等の号数による細かさなどの種類によって奥行きを表現したり、多彩な加工手法を駆使する事により表現の幅が時代と共に発展してきました。 また、安価な加工手法として、金粉を蒔いたままの「消し蒔絵」やシルクスクリーン印刷を応用した「スクリーン蒔絵」もあります。 INOUEでは様々な技法を持つ蒔絵職人のネットワークがあり、ご要望に適した技法を手配しております。
箔押しとは、金箔や銀箔、白金箔で物品を覆う装飾技法です。彦根では箔押しと言いますが、他の地域では箔貼り・箔置きとも呼ぶそうです。
金箔は、金の延びる性質を利用して厚さ約0.0001ミリメートル(1ミクロン)まで均一に延ばしたもので、ここまで薄く均一に延ばせる技術は日本だけにしかありません。鼻息で飛んでいく薄さです。
ひとくちに金箔といっても、純度が高いものから銀を合金して色味を調整したものまで、さまざまな種類があります。また、箔の押し方にも箔の光沢を出す技法や上品に優しい光沢を出す技法などがあります。
INOUEでは、高い技術が必要な広い大きな板の箔押しから、彫刻などの曲面全面の箔押しまで、熟練した職人による幅の広い箔押し技法に対応しています。また、今までは難しいとされてき現代素材であるアクリル樹脂やガラスへの箔押しにもお応えしています。
工芸に使われる金物のうち、装飾性に富む金工品を錺金具(かざりかなぐ)と呼びます。使われる場所や目的に合わせて、銅や真鍮などの金属を使い、立体的な形に彫る地彫(ぢぼり)や、細かな線を彫り込む毛彫(けぼり)、地金に穴を開けて奥行き感を出す透し彫りなど様々な技法があります。
最近では、コストを抑えるためにプレス・電気鋳造(電鋳)・エッチング金具などの金具も多く使用されています。
データをいただければ、家紋や社章などを彫ることも可能です。
錺金具の仕上げも、金めっきで金を施す方法から漆を挿したり、くすべ・ふすべ、黒く光るニッケルめっきなど、様々な技法があり、これらを組み合わせて加飾します。木工品との相性も良く、様々な工芸品でポイントを演出します。
INOUEでは、最適な技法・装飾方法を選択してご提案いたします。
木や石などに彫刻刀などを使って彫り、立体的な形を生み出す技法です。日本が木の文化であるため、伝統工芸では主に木工彫刻が発展しいます。素材はケヤキ、桧、杉、松、柘植、白檀などなど用途や目的によってさまざまな素材が使われます。
INOUEでは、花鳥などの動植物の仏壇欄間から仏像など、それぞれ専門の木工彫刻師が得意とする形があり、多様なご要望にお応えします。図柄は吉祥柄(きっしょうがら=縁起の良い)などの伝統図柄をベースにしたオリジナル図柄も、ご希望の応じてご提案いたします。
めっきは、金属や非金属(プラスチック等)の表面に他の金属を被覆(ひふく)する表面処理の一種です。
仏壇・仏具では、主に真鍮材や銅材の表面に金や銀等でめっきします。分子レベルで密着させるので、金箔押しより表面は強く、金属にはめっきの方が優れています。
なお、めっきに限らず、金属の表面加工には多種多様な技法が発展しています。INOUEでは、ご希望に添った加工方法をご提案させていただきますので、お気軽にご相談ください。
伝統工芸はある範囲ではとても高品質です。しかし、手作りであるため、その範囲には「条件」と「限界」があります。
例えば、漆の品質が担保できない溝、ロクロで作れない形、誤差が生まれるので組み合わせできない形状など、その設計には工業製品とは異なる知識が必要です。
INOUEでは、それぞれの伝統工芸の知識を活かした形状の調整を含め、それぞれの伝統工芸に造詣の深いデザイナーとのネットワークも持っていますので、必要に応じて共同で取り組んでおります。
もちろん企画やデザイン段階のご相談も対応しております。