「古都の記憶」は奈良に新しく建つ建物のロビーを飾るアートパネルです。古都奈良の歴史と風格を表現する空間演出として、伝統工芸の持つストーリー性を活かしました。
天平時代の奈良の街並みを象徴する瓦、丹朱、緑青の色を、それぞれ奈良瓦、焼箔で表しています。それらを江戸時代の奈良の街並みを象徴する奈良格子の栗材で挟んでいます。天平時代のレイヤーの上に江戸時代のレイヤーを重ね、それらを現代から眺めることで古代と近代、そして現代をつなぐ歴史の蓄積を表しています。
複数の伝統工芸の職人の制作した素材を組み合わせて奈良の歴史と風格のストーリーを生み出しています。瓦は創業が天平時代の奈良の瓦屋、栗材はツキノミと呼ばれる名栗を大阪の職人に製造していただき、箔押しと木工の職人を手配し、組み立てて仕上げ、7枚の工芸アートパネルにまとめています。
このようなストーリー性の表現は、伝統工芸の得意とするところであり、様々な地域や文化、コンセプトの表現に取り組んでいます。
Title | 工芸アート・パネル |
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Date | 2023.08 |
題目 | アートパネル/インテリア |
技法 | 木工、瓦制作、名栗突き鑿、箔押し、塗装 |
素材 | 天然栗ツキノミ仕上げ/特注瓦/アクリル/焼箔/ケヤキ/合板/吊り金具 |
サイズ | W306 H920 D30 mm |
デザイナー | 乾 陽亮 |
撮影 | 大野 博 |
奈良、大阪、京都、彦根などの、さまざまな地域の職人が手がけた伝統工芸を7枚のアートパネルにまとめ上げました。ここまで多様な伝統工芸を統合し、組み立てることは珍しいことです。それぞれの伝統素材の特性を把握し、どうやって組み立てるかをデザイナーと相談しながら高い精度で、素材同士の取り合わせによってはゆとりを設けながら、組み立てました。
また、長期にわたって展示され続けることから、強度を保つようパネルの裏側は合板によって補強しています。塗装などの仕上げも専門の職人に依頼し、十分に配慮しました。
木地は、製品の土台・フレームなどを作る最初の工程です。
INOUEの木工の基本は、城下町彦根で江戸時代から続く伝統の金仏壇製造で培われた工芸品質です。
彦根仏壇の木地は、日本建築と同じく釘を使わないホゾ組みを得意としています。材料を吟味し部材の切り出しから継手や面取りに至るまで、妥協のない品質で職人がひとつひとつ手作りする木地は、何世代にも受け継がれる仏壇を支えています。
INOUEの製造ネットワークは量産が得意な他産地の木工所との繋がりもありますので、プロジェクトに適した木工で対応いたします。
箔押しとは、金箔や銀箔、白金箔で物品を覆う装飾技法です。彦根では箔押しと言いますが、他の地域では箔貼り・箔置きとも呼ぶそうです。
金箔は、金の延びる性質を利用して厚さ約0.0001ミリメートル(1ミクロン)まで均一に延ばしたもので、ここまで薄く均一に延ばせる技術は日本だけにしかありません。鼻息で飛んでいく薄さです。
ひとくちに金箔といっても、純度が高いものから銀を合金して色味を調整したものまで、さまざまな種類があります。また、箔の押し方にも箔の光沢を出す技法や上品に優しい光沢を出す技法などがあります。
INOUEでは、高い技術が必要な広い大きな板の箔押しから、彫刻などの曲面全面の箔押しまで、熟練した職人による幅の広い箔押し技法に対応しています。また、今までは難しいとされてき現代素材であるアクリル樹脂やガラスへの箔押しにもお応えしています。